法律知識「新型コロナウイルス 」
2020年05月28日 新型コロナウイルス
家賃の猶予・減額
1.家賃と資金繰りの問題
事務所や店舗を賃借している事業者にとって、売上がなくても支払が必要な家賃の負担はとりわけ重いものがあります。では、新型コロナウイルスを原因とする家賃の支払猶予や減額は認められるのでしょうか。
2.家賃の猶予
日本の法律では、家賃の支払猶予を賃貸人に義務づける規定はありませんので、支払を猶予するかどうかは賃貸人の判断に委ねられています。
そのため、賃貸人が了解しない以上は家賃の支払いは猶予されません。
ところで、国土交通省は、令和2年3月31日、不動産関連団体を通じて、賃貸用ビルの所有者など飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対して、新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、その置かれた状況に配慮し、賃料の支払いの猶予に応じるなど、柔軟な措置の検討を要請しています。
◆令和2年3月31日付国土交通省報道発表資料
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001339166.pdf
もちろん、この要請は任意の対応を依頼するものであり、支払猶予を強制するものではありません。
ただし、賃貸人側としては、資金繰りに窮した賃借人が家賃を滞納し、最悪倒産するような事態になってしまうと、家賃収入がなくなるだけでなく、建物明渡費用まで必要となり、さらには明渡しが完了して次の入居者が入るまで家賃収入を得ることができなくなり、結果として大きな損失を被ります。
賃貸人としてはこのリスクを十分踏まえた上で、賃借人の具体的な状況を考慮し、猶予を認めるか否かを検討することが必要と思われます。
3.家賃の減額
家賃の減額については、法律に次の規定があります。
① 賃借人の帰責性なく賃借建物の一部が滅失したときの家賃減額(旧民法611条)/ 建物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなったときの家賃減額(新民法611条)
⇒ 新型コロナウイルスを原因として店舗等を休業したときに適用されるか
② 家賃が土地建物に対する租税その他の負担の増減、土地建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の家賃の比較から不相当となったときの家賃減額(借地借家法32条)
⇒ 新型コロナウイルスを原因として売上が激減したときに適用されるか
(1) 民法611条 ・・新型コロナウイルスを原因として店舗等を休業したとき
令和2年4月1日に改正後の新民法が施行されました。
4月1日より後に締結した賃貸借契約は新民法が適用され、4月1日より前に締結した賃貸借契約は旧民法が適用されます。ただし、4月1日より前に契約をしていても4月1日の後に合意更新した場合は新民法が適用されます。
ところで、旧民法611条1項では賃貸建物が一部滅失の場合に賃料減額請求でき、新民法611条1項では建物の一部滅失に加え使用収益できなくなった場合に賃料が減額されると規定されていますが、旧民法でも一部滅失に限らず使用収益できない場合には賃料の減額が認められると一般に解釈されていましたので、民法改正の前後で実質的な違いはないと考えられます。
では、新型コロナウイルスの影響により飲食店やホテルなどが休業した場合、建物を使用収益できなくなったことを理由に賃料減額が認められるのでしょうか。
この点、自主的な判断で休業した場合、緊急事態宣言下の自粛要請により休業した場合、いずれの場合も最終的には賃借人の判断で休業しているため、酷ではありますが賃借人の帰責性の問題がありますし、滅失その他使用収益できなくなったというのは物理的に建物の一部が使用不可となったことを想定していると考えられますので、民法611条の適用はなく、減額は難しいと考えられます。
(2) 借地借家法32条 ・・新型コロナウイルスを原因として売上が激減したとき
借地借家法32条1項は、家賃が
・土地建物に対する租税その他の負担の増減
・土地建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
・近傍同種の建物の借賃の比較
から不相当となったときに減額請求ができると規定しています。
では、新型コロナウイルスの影響により売上が激減した場合に、借地借家法32条1項に基づく賃料減額請求ができるのでしょうか。
この点、新型コロナウイルスの感染拡大により確かに経済活動は縮小しましたが、直ちに周辺家賃相場が影響を受けたり、物価の低下を招いたりという事態にまでは至っておらず、今後長期間にわたって影響があり経済事情の変動が生じたような場合は別として、現時点での賃料減額請求は法的には難しいと考えます。
4.現実的な対応
家賃の猶予も減額も賃貸人の承諾が必要ですので、賃貸人に猶予や減額をお願いするほかありません。
現実的なお願いとしては、店舗休業中や売上減少が続く間の一時的な減額や猶予になると思われますが、賃貸人の属性や事情(法人か個人か、大規模か小規模か、ローン返済があるかないかなど)に配慮して話し合いをするのが望ましいと考えられます。
賃貸人との間で協議がまとまらない場合は、弁護士に相談するほか、裁判所の調停や弁護士会の仲裁を利用して、第三者に話し合いをあっせんしてもらうという方法があります。
調停や仲裁の詳細は以下のウェブサイトをご参照ください。
◆調停:最高裁判所ウェブサイト
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_04_02_10/index.html
◆仲裁:日本弁護士連合会ウェブサイト
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/conflict.html
5.国による支援 -家賃支援給付金-
5月27日に閣議決定された令和2年度第2次補正予算案に「家賃支援給付金」が盛り込まれました。概要以下のとおりです。
【対象者】
・中堅企業、中小企業、小規模事業者、個人事業者等
・本年5⽉〜12⽉において、
①いずれか1カ⽉の売上⾼が前年同⽉⽐で50%以上減少
②連続する3ヶ⽉の売上⾼が前年同期⽐で30%以上減少
【給付額】
「申請時直近家賃の3分の2相当額(ただし法人は月50万円、個人事業者は月25万円を上限)」×6
ただし、複数店舗を所有する場合などは上の給付上限を超過した家賃の3分の1相当額を給付。その場合の給付上限額を法人は月100万円、個人事業者は月50万円に引き上げ
【図】家賃支援給付金のイメージ
(出典:経済産業省 令和2年度第2次補正予算案の事業概要(PR資料))
家賃支援給付金は第二次補正予算成立後の申請・給付となるため、給付までに今しばらく時間がかかります。
そこで、当面の家賃負担を避けるため、家賃支援給付金での支払を約束して当面の家賃の猶予のお願いを検討してみるのもよいでしょう。